フラット・マンドリンのリペアー 1


 さて今回は、フラット・マンドリンのリペアーです。

私のバンド仲間の所有楽器なのですが、「弦高」が高過ぎて弾けないので修理する事になりました。

 修理を行なう上で重要な事は、まず現状の把握です! と、言う事で・・・


 確かにこれは酷い状態ですね?

 これではまるで、ビル・モンローのロイド・ロアーですね?(彼のマンドリンの弦高は、非常に高かったそうです? 何故か? そうすれば誰も、その楽器を弾きたがらないだろうと考えたそうです?)
 ブリッジは一番下まで下げてあります。

 何故にこうなってしまっているのか?
 原因は、ボディーとネックの接合部の緩みでした。

 このトラブルは、弦楽器には良く起こるものです。 ギターやヴァイオリンにも、良く起こるトラブルです。

 特にマンドリンは、弦の張力が強いので良く出てくるトラブルです。

 この様なトラブルが出た場合は、ネックをボディーから一旦外して接合しなおすのが一般的な良い方法です。 今回も勿論、その方法で行いますので・・・まずは、ボディーからネックを外す為に指板を外します。そして、ボディーとネックの接合部分を外す事にします。
 この楽器の接着には、昔ながらの「膠・にかわ」が使われていますので、熱と水分で割合と簡単に外すことが出来ます。 これが、科学接着剤(エポキシ樹脂)などが使われていると・・・最悪です!

 外したところが、この画像なのですが・・・

 思っていたよりも非常に酷い状況でした?
 ボディーとネックが接触していた所は、上の方の少しだけでした。下の方には、分厚いニカワの層ができていました。つまりは、しっかりと接触していなかったと言う事です。

 これでは強い張力で浮き上がってもおかしくありません? 
 そして、悪い事にボディー側の部分(ネック・ブロック)に割れがあります。これも原因の一つのようです。

 おまけに、ボディーとネックの間に板切れを入れて隙間を埋めています。これは最低の固定の仕方、誤魔化しです!
 接合部分の蟻溝ほぞも、左右がアンバランスです。

 結構、ええ加減な作り方ですね?

 思っていたよりも大変に酷い状況でした。

 とりあえずは、ネック・ブロックの割れを「タイトボンド」で固定しました。

 二度と外す事は無い所ですし、削る必要がある所でしたのでニカワは使いませんでした。
 ニカワは固まると、刃物よりも固い状態になりますので、削り作業が必要な所は木材と同じくらいの固さになるタイトボンドの方が良いと考えています。

 と言う事で、ネック・ブロックに補強を入れてしっかりと接合しなおすことにしました。

 ネック・ブロックの接合部分の表面を綺麗に整えた後に、補強材を冶具を使って貼り付けました。
 今回は補強にウォルナット材を使いました。
ネック・ブロックは、マホガニー材が使われていますが、ネックはメイプル材が使われていますので、その中間的な性格のウォルナット材を使いました。
 こんな感じで補強を入れました。

 これなら強めに圧力をかけても大丈夫でしょう?
 接合部分の表面を綺麗に整えます。
 そして、接合部分に鉛筆を塗り・・・
 その状態で、接合してみます。
 当たりが強い部分には、鉛筆の黒鉛が付きますので・・・
 その部分を削って調整して行きます。
 何度も何度もやりながら、少しづつ・・・そして、ピッタリと合わせて行きます。
 あと、もう少しです?

 この接合部分の合わさり具合は・・・
勘です!

 ゆる過ぎては、いけませんが・・・
 きつ過ぎても、いけません!
 丁度良い合わさり具合になったところで、接着です。

 接着には、ニカワを使います。

この部分は、これから先も修理の為に外す事が考えられるので、ニカワを使います。
 接合出来たら、指板を接着する部分の表面を綺麗に整えます。
 今回は、念のために・・・

 見えない部分に、ちょっと細工しておきました。
 ここにくさびを入れる事によって、ネックの再度の起き上がりを防ぐ効果を待たせます?
 勿論、出っ張った所は、切り落として整えます。
 この補強は、接着はしません。後に修理が必要となった時に邪魔になりますので・・・
 強めに挟み込んであるだけです。
 そして、指板の接着です。

 これも勿論、ニカワを使います。
 接着完了!

 これで出来あがり・・・では、ありません!

 接合部分の境目を、ニスを塗る事によって塞いでおかないと、空気中の水分から剥がれ易くなるのです。

 今回、塗料は「ラッカー」を使いました。
ラッカー塗装の楽器ですので、非常にやり易かったです。
 十分に塗り込んだら、綺麗に仕上げです!
 どうです? 綺麗に仕上がったでしょ?
 これで、しばらくは大丈夫でしょう!
 全体を綺麗に磨き上げて、弦を張ったら完成です!
 この後、しばらくは「様子見」を行ないます。

 オーナーへ、お返しした後に、また同じトラブルが出ては大変ですので?
 出来あがりです!

 改めて見直すと・・・結構、綺麗な良い楽器ですね!

 ま〜こんな感じで、結構本格的なリペアーになってしまいました?

画像で見ると・・・すぐに出来あがっておりますが、実際には相当数の日数を要しております。
接着や塗装には、一回ごとに一日以上の間隔が必要ですし・・・特に、最後の塗装作業には結構な日数が掛かりました。
 また、ボディーからネックを外してから・・・「どうやって直すべきか?」と、考えていた期間が相当な日数がありました。修理の仕方が確立している場合は、早いのですが・・・そうでない時は、何もせずに考えている時間が非常に長くなる事が、修理ではよくあります。
 特に今回は、バンド仲間の楽器であり・・・「いつでもええよ!」の言葉に甘えてしまい、非常に長い日数がかかってしまいました。
 大変遅くなりまして、申し訳御座いませんでした。 反省しきりです!!!

 でも・・・出来上がりには、御満足いただけるものと思います!


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